卓と里奈、二人の願い通りの人前結婚となった。
拍手喝采の中、入場した二人の頬は紅潮していた。
卓の家族のテーブルには、亡き祖母の写真が微笑んでいる。
親友の富山と、その妻の笑顔は「妹をよろしく!」そう語りかけていた。
里奈の両親は、感慨深げな喜びの表情で拍手を送っている。
卓の両親は、入場する二人を見た瞬間から、目頭を熱くしていた。
妹とその家族・・・そして翔太が一生懸命、拍手を送っている・・・
翔太の母親は、通り過ぎる二人に深々とお辞儀をした。
「イヨッ!卓ちゃん!」
「おめでとう!」
二人に大きな声を掛けたのは沢口夫妻だ。
卓は軽く会釈する。
ひな壇に上がった、二人は司会の指示通り、指輪の交換を行い永久の愛を誓った。
テーブルには里奈が手塩に掛け、丹精込めて育てた野菜の数々が料理となり並んだ。
親友、友人たちの歌に続き、お祝いの言葉が、続く・・・
「ご新郎の親しい御友人でございます」
司会者に呼ばれて前に進み出たのは、なんと翔太であった。
サプライズである。
披露宴を演出した担当者が、誰に祝辞を頼むか新郎には尋ねることなく、新婦側に聞いたのである。
「おじちゃん!里奈ちゃん!ご結婚おめでとうございます!」
翔太の一声に、会場は拍手で湧いた。
「僕とお母さんとお爺ちゃんは、卓おじちゃんに何度も助けてもらいました・・・僕が最初におじちゃんに会ったのは駅のタクシープールの近くでした・・・お母さんと会えなくて、僕が困っていたら、おじちゃんが交番に連れて行ってくれて、お母さんに会えました・・・それから、今は療養中のお爺ちゃんが居なくなったとき、何度もお爺ちゃんを見つけて来てくれました・・・いつもお母さんや僕を励ましてくれました・・・東北復興で、岩手にいるお父さんも、卓おじちゃんみたいな人がいて、安心だと言っています・・・僕は卓おじちゃんが大好きです・・・だから幸せになってください・・・ボクは卓おじちゃんのような優しく、強いカッコいい大人になりたいです・・・卓おじちゃん!里奈ちゃん!本当におめでとうございました!」
翔太は深くお辞儀をした後、おもむろに祝辞を折りたたんだ。
勿論、温かな拍手が鳴りやまず・・・
素晴らしい祝宴である。