人生の再出発!
新しい門出とはまさにこのことであろう。
卓はすがすがしい朝を迎えた。
実家に戻り、仏壇に手を合わせ、家族で朝の食卓を囲む。
「今度の食事から、一人増えるね」
母が嬉しそうに声を弾ませる。
味噌汁をすすりながら、父も頷いた。
食事の後、両親から仏間に呼ばれた卓は、父親の言葉に驚きを隠せない。
「お婆ちゃんが残してくれたものだ」
卓の名義になった通帳とハンコが、差し出された。
家族それぞれの、名義になった通帳があると、祖母の亡くなった後、母親から聞かされていたが、卓は中を開き目を丸くした。
「マルがひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ・・・」
眼を丸くした卓に父親が、口を開く。
「お前が小さい頃からのものなんだよ・・・それから、これは父さんと、母さんからだ」
見ると、卓名義の通帳がもうひとつ・・・
卓は「えっ!」と声をあげたまま、言葉に詰まった。
やはり、通帳にはマルが幾つもあった。
毎月、祖母の介護に明け暮れる母親に送っていた5万がそのまま、振り込まれていたのと、卓が成人式を迎えた時期から父親が月2万を振り込んでくれていた。
「これ・・・」
「卓!今日まで良く頑張ったね!大学卒業して、就職したころ、アンタが悩んでいるのをどうすることも出来ず・・・ただ、見守るだけだった・・・せめて、何かの時にと、父さんとこうやって貯めて来たの・・・良いように遣いなさい」
母親の言葉に胸が熱くなった。
「これは、使えない・・・父さん、母さんの老後の事もあるから、これは二人で遣って・・・」
卓はそう言いながら、通帳を押しやった。