不思議な位、卓は度胸が据わっていた。
様々な事件や出来事を経て、死線まで、さまよった事が、卓を一回りも二回りも大きくしていたのだ。
「どうしてこんなことを仕出かしたんですか!」
卓が厳しい口調で言い放つ。
「カンケ-ねえだろ!」
「関係なくはない!これは犯罪だ!分かってんのか!」
卓は敬語をやめた。
「当社のタクシ-が、遅れた事は謝る!しかしだ!こちらは待たせた分!差し引くと言った!それが誠意だと思ったからなんだよ!なけりゃないで、後で支払うって手もあるだろ!!」
「・・・」
「いいか!人ってえのはなあ!一生懸命働いて、働いて、成長する!人として認めてもらえる!甘い汁吸って、それも罪を犯してまで、暮らして行こうなんざあ!世間に甘えてるだけの人間がするこったあ!ええ!」
「ナンダ!オメエ!何、芝居がかったこと言ってんだ!説教してるつもりか!バカか!」
「バカは、おまえだ!」
「ナニ、人に、それも客に向かってバカとはナンダア~!!」
「お客!?誰が!誰が客だ!どこにいる!客かあ!?・・・イイか!良く聞け!こちとら、朝から晩まで額に汗して必死で働いてんだ!乗客の命護るために、研修だ!学習だと、必死こいて技能開発してんだ!それでも、初乗りは710円なんだよ!飲食店ならランチだ、なんだかんだで、千円以上取れる!しかしだ!この商売!爾後回数一回で90円だ!それでも必死で働いて、酔った乗客の嫌がらせにも7耐えて、耐えて営業してんだ!分かるか!なあ!ワカンのか!」
「分かるわけねえだろ!」
「そうか!じゃあ!警察で教えてもらえ!・・・穏便に済ませようとしたが、申し訳ないの一言も出ねえんじゃあ、もう、ダメだな!人として!オメエみたいなヤツに女が惚れるか!じっとしてろよ!」
卓は携帯を、ズボンのポケットから引っ張り出した。