「あのさあ~!ああだこうだと言われても、ウチらは、ワカンネ-んだよ・・・」
「申し訳ございません」
「5,6分って言っといてさあ、20分も待たせるナンテ~のは、詐欺ジャン!」
卓は出来るだけ、簡潔に説明をした。
「お客様が、お電話された時点で、画面上に、何分掛かるのか表示されます・・・でも、その時点ではまだ、乗務員に指示が出されていない場合があるんです・・・運悪く、直後に道路で他の乗客の方が、手を挙げて、お乗りになると拒否できない場合がございます・・・ホントに瞬時になんです・・・その後の事をお客様に、ご説明しようにも非通知ですと、連絡の取りようがないという事も、まま、あるようです」
「だから!そんな事はワカんね~つってんの!」
「申し訳ございません」
「最近、ここのタクシ-乗せてやる式だよな!」
「いえ、決して、そんなことはございません」
「なんか、感じワルクネ!?ここ最近!特に経験豊富な人に限って・・・」
「自分が勤めている会社だからと、申し上げるわけではありませんが、逆に様々な問題点をあぶり出して、対策を立てています・・・もし、失礼な事がありましたら、これからも仰っていただくと有難いのですが・・・」
「アンタさあ~口達者だよな!俺の事、バカにしてる!?」
「いえ!そんなことは決してございません」
「いや!あるね!俺の事、バカにしてるよ!」
卓はここへ来て「おかしい」と、ハッキリ気が付いた。
ここまで説明し、穏やかに心を込めて詫びているにも拘わらず、どうもこちらの非を、とがめたいのだ。
「さて、どうするか・・・」
卓は一瞬考えた。
もう料金はいらないと言うべきか・・・いや、そうなると、またこの手を使い、他の同僚を困らせるに違いない。
乗客の指示した先は、道路沿いにある5階建てのマンションである。
料金は1,970円。
「お客様、1,500円で結構です」
後は卓自身が清算するつもりであった。
「いま、家に行って戻って来るから待っててもらえる?」
「はい」
乗客はマンションの中へ・・・
しかし、この時、卓は気が付いていた。
車両のエンジンを切り、鍵を掛けると、マンションの裏手に素早く回ったのだ。
裏には自転車置き場があり、駐車場を抜け、突っ切ると出口がある。
「踏み倒すな!きっと!」
卓の直観であった。
車中で、ああだ、こうだとイチャモンを付けていたのも、その為である。
卓はこのマンションの、構造を知っていた。
左手に回り、駐車場の出口に回るや、男が丁度、すり抜けるところであった。
「料金まだですよ!」
卓は、わざと、周りに聞こえるような大声で、不意をついた。
ビックリした様子の男は、そのまま駐車場の出口から道路へと飛び出したが、あっという間に卓に追いつかれてしまった。
「困りますよ!無賃乗車は!」
「オラ!放せ!放せよ!」
男が暴れる。
「無ければないと誠意をもっていうべきでしょう!警察呼びますよ!」
警察と言う言葉に、男は逆上した。
「呼べよ!呼べ!早く呼べ!」
卓は男を羽交い絞めにし、タクシーのあるところに連れて行った。
中へ乗せると卓は、ピタリと傍に座り込んだ。