久しぶりに上(高速)から行くのは、気分が良い。
信号もなく、停止線もない。
しかし、その分、危機意識が必要となる。
卓は、慎重にアクセルを踏んだ。
「それって、どういう事か、聞いてもイイかしら」
卓の言葉が気になっていた川山綾子が、切り出した。
「大変失礼な事をお伺いしますが、宜しいですか!?」
「イイわよ」
「お付き合いのある、お相手の方より、川山様の収入が多くないですか?」
「そうです・・・だって、私の会社、外資系ですから・・・」
「それって、男にとっては、かなり引っかかりがあるものなんです」
「・・・」
「勿論、頓着しない方もいらっしゃいます」
「あっ、でも、分かるような気がします」
「・・・」
「その彼、食事しても必ず、自分が出す人なんです」
「はい・・・」
「3回に一度は、私が出すようにしているんです・・・これでも男のプライド、見守って来たつもりなんだけどなあ~」
「多分、ご自分の社内に於けるポジションみたいなものが、更に向上し、それに伴った報酬が、ある程度、ご自分の人生設計にかなったと思えるまで、結構、時間稼ぎたくなるんです・・・男って・・・」
「じゃあ、川浦さんはどうなんですか」
「僕は、母親から男子厨房に入るべき!と教わった人間ですから、ナンでも助け合って、力を出し合って行くのが夫婦だと思っています・・・女性が、情熱を注いでいる仕事を持っている・・・それは、とっても魅力的ですから・・・勿論、男一人の稼ぎで暮らして行くのも素敵な事ですよ・・・皆、置かれた状況、違いますからね」
「私は、結婚しても、働きたいの・・・」
「その情熱を、伝えましたか」
「・・・」
「伝えてないでしょう」
「ハイ・・・いつも愚痴を聞いてもらってました」
「そこなんです」
「・・・」
「男も同じです・・・職場の愚痴をいつもこぼすご主人って、どうでしょう」
「初めは、大変なんだなあと思いますけど、そのうち、あ、またかって・・・」
「川山様が、情熱と喜びと遣り甲斐をもって仕事をなさっていれば、お相手の方は、理解してくださると思います・・・しかし、今迄はそうではなかった・・・この人が、こんなに負担を感じながら働いている・・・早く辞めさせてやりたい・・・そのためにも、男の自分が頑張らなきゃあって・・・決してズルズルと長引かせて、都合のイイ付き合い方をしてらっしゃるわけではないと思います・・・そう人も、中にはいるでしょうけど、その方は、そういう方ではないような気がします」
「川浦さん・・・私、今初めて、分かりました・・・思い当たる節があるんです」
「そうでしょ」
「ハイ・・・いつも、彼は黙って聞いてくれてました・・・それをイイことに、私・・・横着でした・・・甘えてました・・・あ~私って、バカみたい!」
「お見合いするのも、仕方ない・・・って思っておられるはずです」
「私ったら・・・」
「・・・」
「川浦さん・・・今度の出口で、降りてください・・・戻ります」
「差し出がましいようですが、そうすれば、お見合いの、お相手の方も傷付けることになります」
「どうすればイイですか」
「一旦、お見合いすべきだと思います」
「でも、それって罪なことになるんじゃあ・・・」
「いえ、人生いろいろ、男もいろいろ、女もいろいろ・・・です」
「・・・私ってホントに稚拙!幼稚!どうしようもない女だわ・・・」
「川山様は正直なんです」
「ありがとうございます・・・川浦さんに話してホントに良かった」
そうこうするうち、車は新宿の高層ホテルの玄関口に滑り込んだ。