「川浦さん・・・戻るまで、待っててくださいます?」
「ええ、それは構いませんけど、お時間、大丈夫ですか?」
「大丈夫です・・・すぐ、戻ります」
川山綾子は、ホテルの中へと、駆け出した。
タクシ-料金だけでも半端ではないハズ・・・卓は他人事ながら心配になった。
ホテル玄関口の脇に車を停め、ドアマンに理由を告げ、エンジンは掛けっ放しで待っていた。
時間にすると20数分だろうか。
綾子が「ごめんなさい・・・」と顔を紅潮させ戻って来た。
「大丈夫だったんですか!?」
不安げに尋ねる卓に綾子は、勢いよく語り始めた。
先ず、お越し頂いたお礼を述べ、まだ結婚するつもりはないが、親や中に入って下さった方の立場を考え、ひとまず来たこと、我ながら、大人げなく随分失礼な事だと思ったが、叱られても、正直に話そうと決めて来たこと、ホントにごめんなさいを何度も繰り返すうち、相手はゲラゲラ笑いながら「面白い人ですな」と許してくれた事、良い人でホントに良かったことなど・・・
「さすがに、5年間、お付き合いのある人がいるんですとは、言えませんでした」
下をうつむいて話す綾子に、卓が声を掛けた。
「それまで喋ったら、正直過ぎます・・・ウソも方便と言いますから・・・お相手をキズ付けないウソは、罪にはならないと思います」
「そうだとイインですが・・・川浦さん!」
「ハイ!」
「私って・・・罪な女ね・・・」
卓は吹き出したいのを、グッとガマンした。
「戻りますか?」
「イエ・・・このまま、彼の会社迄、行って下さい」
「エエ~ッ!仕事中ですよね!」
「大丈夫!何度か仕事絡みで、訪ねた事があるので、今日もそのテで、行きます」
「・・・でも、大丈夫ですか?」
「ナニが?」
「いや、仕事中に結婚話切り出されても、困惑するだけじゃあ・・・」
「仕事中だからイイの!不意をつくわ!・・・今日こそ決着付けてやる!」
卓は心底驚いた。
女性がその気になると、ものすごいパワ-を発揮することは以前から、分かっていたが、ここまで、鉄のような意思の強さと、揺るぎない行動力を目の当たりにすると、もう開いた口がふさがらない・・・
卓は、そのまま彼女から指示された、飯田橋へと向かった。
「ジェジェジェ~ッ!以前、沢口社長と、その愛人、沢口の本妻がやりあった処からさほど、遠くない・・・」
卓は内心、「やれやれ・・・ナンか今回も、トコトンつき合わされそうだ」と、小さく息を吐くや、ハンドルを切りなおした。
一路!飯田橋へ!イザ!決戦の時!