上宮市までは、商業道路と言う呼び名の国道を、直進で30分なら行ける。
昼間と違い、渋滞こそないが、ひっきりなしに通る大型トラックやタンクローリーの間を走ることもあるため、うかうかしてはいられない道路である。
・・・車中で乗客は一言も発しない。
卓は徐々に「尋常ではないかも・・・」と思い始めていた。
ちらりとミラーに目をやっても乗客の顔は分からない・・・
イザと言う時の為に、卓はシートベルトを静かに外し、料金バッグをたぐり寄せた。
走る事、40分・・・料金メーターは、とうに5000円を超えている。
「お客様、上宮市のどの辺でしょうか」
「・・・」
「お客様・・・」
もう一度、声を掛けて見る。
「・・・大通り交差点を右・・・」
やっと返事が返って来た。
ほどなく、指示された交差点が現れたのを確認し、言われた通り、卓は右へハンドルを切る。
数分走ると、家々は遠のき、周りには田畑が広がってきた。
手前にうっそうとした林が見えて来たところで、乗客は「この辺で!」と吐き出すように声を荒げた。
「ありがとうございます・・・料金は・・・」
と言いかけた瞬間、卓の喉元にはキラリと光るものが、突き付けられた。
「来た!」卓は一瞬、頭が真っ白になって行くのを感じていた。