里奈との楽しい時間はあっという間である。
中央線の駅まで一緒に歩き、里奈は立川方面、卓は新宿方面のプラットホームに立った。
「メール送るね」卓が、向かい側のホームに立った里奈に、声を出さず、手の動きだけで伝えた。
里奈が口を開き無言で「オーケー牧場!」と答える。
二人、クスクスと笑った。
立川方面の電車が滑るように入って来ると、乗り込んだ里奈の姿が見えなくなるまで、卓は手を振った。
「35歳にして・・・春が来たか・・・」
卓はそう思い、一人クスッと笑った
「こんな身近に、もしかして伴侶になる女性がいたとは・・・」
里奈は自然体である。
自分はどちらかと言うと、かなり考え込むタイプだと自覚している。
しかし、真逆の二人だからこそ、一緒にいて刺激的で楽しいのだとも思う。
結婚まで辿りつけるのか否か・・・卓は、自然に任せる事にした。
そして、なんでも打ち明けるということを、心の原則にしようと思う。
心の内を喋らなければ、相手には伝わらない。
卓の深刻な教訓であった。
そして、里奈を守ろうと思う。
卓にとって、里奈の存在は日に日に、愛おしく大きくなっていった。