それからの卓は、一段と逞しく、強靭になって行った。
守らなければいけない対象が存在するという事は、人を大きく成長させるものである。
祖母の介護に明け暮れる母親、嘱託で働いてはいるものの、リタイア間近の父親。
里奈との結婚を前提にした交際。
卓にとってその全てが、頑張りの原動力、生きる力、勇気の源となった。
何より、自分を認めてくれる人たちが回りにいるという事が、嬉しく有難い。
「全てを師とす」・・・まさしく卓は男として、社会人として進化する、とば口(入口)にやっと立てたような気がしていた。
毎日を充実させる・・・
卓は必死で働いた。
しかし、闇雲に動き回るというのではなく、用意周到に、そして明るく・・・且つ冷静に。
誰も育ててはくれない。
職場とは、厳しいものである。
へこたれて座り込んでしまったら、前には進まないのだ。
ゴールは見えない・・・しかし、卓はそれで良いと思う。
己を律する心さえ失わなければ!
自分を誤魔化し人を欺いてまでも、稼ぎたくはない。
正正堂堂と、粛々と、誰にも迷惑を掛けたくないと思っている。
「なんか、最近、感じが変わって来たなあ」
田中が驚くようになった。
「そうですか」
「変わったよ!」
「ありがとうございます・・・今までの自分から気が付いたことがあるんです」
「ほう・・・ナニ!?」
「今までは、結構、周りを責めていたところがるんです」
「周りを・・・」
「はい!でも、周りではなく自分が変わらなければ、周りは変わってはくれない・・・ようやく、それに気が付いたんです!」
「なるほど・・・深いなあ~」
「そうですか!?・・・田中主任のお蔭です」
卓は軽く会釈した。
「逞しくなってきたと思ったら・・・そういう心境の変化があったんだな・・・」
「ええ・・・」
ニッコリする卓に田中が頷いた。