「ウヮハッ!・・・困ったぞ~」
卓は内心、「なんでこうなるんだ~」と叫んでいた。
そんな卓のウブな気持ちなど、カンケイナ~イ!飛んで火にいる夏の虫~と言わんばかりに、昔の乙女軍団の矢のような攻撃が続いている・・・
「奥さん、いらっしゃるの・・・」
「いえ・・・まだ・・・です」
「あ~ら!もったいない!」
「おさびしくない?」
「はあ・・・」
「でも、ホント素晴らしい泳ぎ!」
「ねえ!皆さん!拍手~!」
パチパチパチ~!
ジャグジーバスに拍手が高らかに響くのを、あちらこちらで「なんぞや・・・」とばかりに、プールから上がり見に来る利用者まで出てくる始末・・・
「あ~もうダメ!」
そう思った次の瞬間・・・
「あ~ら!卓ちゃん!」
ジャグジーバスの端から年配の女性の声がした。
ふと見ると、なんと沢口社長の奥方である。
真っ赤な花ガラの水着に、これもまたド派手なドピンクの花飾り付きのキャップを被っていたが、卓にはスグわかった・・・
「あ~コンニチハ~!」
卓はここぞとばかりに立ち上がった。
沢口社長夫人の方に歩いて行く卓を見つめながらまだ、乙女軍団は「ねえ!ちょっと見なさいよ!イイカラダヨネ~」
「ホント!水なんか弾いてるからねえ~」
「あ~ら!あなたも負けてなくってよ・・・」
「ウワ~やだ~そう~!?」
背中の後ろで、かまびすしく、品定めする声が聞こえてきた。
「やだ~じゃあないだろ・・・女性は集団になると怖い者なしだな・・・」
卓は苦笑した。
「随分、人気があるのね~」
沢口夫人が楽しそうに笑った。
「どうもこの間は・・・」
「ヤダ!それはこちらのセリフ・・・ご迷惑掛けたわね・・・」
「沢口社長は、お元気ですか」
「どうかしら・・・例の件、私にバレた事、何となく気が付いたみたい・・・」
「え~」
「え~じゃありません!・・・」
「あっ、はい!」
「うちの人・・・私にバレると、もう気持ちが乗らないみたい・・・」
「え~」
「そうなのよ・・・男って、バレてないと思うから、スリルに溺れるの・・・だけど、ばれた瞬間、やめて大人しくなるのも・・・また可愛いの!」
「はあ~」
卓はそんなものかと思う・・・
夫婦・・・面白きかな、このオトコとオンナ・・・卓は「つかれるわ~」と心の中で呟いた。
「卓ちゃん!あなた今、心の中で、疲れる~って溜息ついたでしょ」
「エ~ッ!」
「ホラ!図星でしょ!女はね!鋭いのよ~」
「・・・」
「それはそうと、卓ちゃん!お願いがあるの・・・」
「僕にですか・・・」
「ここじゃあ、なんだから30分後に、駐車場横のファミレスでお茶しない・・・」
「ええ・・・分かりました・・・」
「じゃあ・・・お先、上がるわね・・・」
沢口夫人はさっと、立ち上がりシャワーで身体を洗うと階上の浴室へと消えて行った。
「お願いかあ?・・・」
卓は何となくイヤな予感がした。