コンビニから部長が出て来たのは10分程、経ってからであろうか。
「すまなかったね・・・」
鋭かったメガネの奥は、柔和な光に代わっていた。
「いえ、大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫・・・昨日から調子が良くなかったんだが・・・イヤア、参った!迷惑掛けたね」
「とんでもないです・・・じゃあ、どうぞ・・・お乗りください」
卓は静かにドアーを開けた。
運転席からは、先程の部長とは全くの別人に見えるから不思議である。
落ち着いた物静かな人物に見えるのだ。
「このお客様に対する苦手意識が、きつい人に見させていただけなのかも知れないな・・・」
卓はそう思いながら、「どのような道順で参りましょう?」と聞いた。
「行きやすいように、行ってくれればイイよ・・・」
穏やかな答えが返ってきた。
その後、本社に着くまで、アベノミクスやTPP、原発や東北支援の話題で、話がはずんだ。
本社玄関前に着くと、部長はチケットを出し、ポチ袋を「気持ちだよ」と差し出した。
遠慮したが、「それでは気が済まない」という部長の言葉に促され、有難く頂戴することにした。
部長が降り、そこから少し離れた処で日報を付けながら、袋の中を見ると3千円が入っていた。
余程、申し訳ないと思ったのではないか・・・卓は、当然のことをしたまでだが、この時期の3千円は有難かった。