「あの時は、ホント焦ったよな・・・」
卓は、数年前の出来事を思い出しながらも、首都高で用を足すなど
トンデモナイ!・・・無理であることなど百も承知・・・かと言って乗客に「ガマンしてください」とは言えない・・・そう思う。
「お客様、次の出口で、降りますので、ご安心ください」
「うう~わ、わかった・・・」
乗客は終始「ああ~うう~」と唸り続けている。
「あった・・・よし!ここで降りよう」
運よく直ぐ出口が見つかった。
一般道路に出るや卓はコンビニを探した。
「おお!あったぞ!」
心の中で、軽く叫びながら、かなり大きなコンビニの前に車を停めた。
「お客様、コンビニで、おトイレ!借りましょう」
卓は素早く運転席から降り、「どうぞ」と乗客である部長の腕をとった。
タクシードライバーは、お客様の身体に触れてはいけない・・・これが原則であるが、介助、介護は別である。
部長はそーっと降りると、両足をギュッとエックス状にすぼめ、やっとの思いで歩いている。
見るも情けない姿恰好ではあるが、こういう時、本人は必死である事くらい、充分理解できた。
店内に入ると「すみません・・・おトイレ、お借りしてイイですか」
本人に代わり卓が、店員に聞いた。
「は~い!奥へどうぞ!」
大学生のバイトだろうか・・・レジを打ちながら店員が、ひょうきんな声で答えた。
「大丈夫ですか」卓の思いやる声に部長は軽く頷く。
卓はトイレのドアーを開け、無事、部長が入ったのを確認し・・・外で待った。