「うう~!ウウッ!」
後部座席の部長の顔がみるみるうちに、真っ青になったり真っ赤になったりと、かなり苦しそうなのがよく分かる。
卓にも過去、辛い経験があった。
脂っこいトンコツラーメンを昼食に摂ったあと、雨の中、クルマを走らせていると、傘を差したスーツ姿の恰幅の良い男性が手を挙げている・・・
「多分この道で手を挙げてるから・・・ロングかも!」
はやる心を抑え車を静かに停めた。
クルマを止めたあと、乗り込んできたリーゼントの若い衆を見て一目で「任侠の世界」の人だとわかった。
「乗せてしまったあと・・・拒否も出来ないしなあ・・・」
「ロッポンギ・・・アマンドの交差点だ・・・」
「ハイ!かしこまりました!ロッポンギ、アマンドの交差点までですね」
「ヤッタ~ロングだよ!ロング!キャッホ~」
卓は心の中で叫んだ。
車の中では終始、その乗客は携帯で話し込んでいた。
「わかった!わかった!その件は、俺に任せとけ・・・今、向かってる・・・」
ミラーから除くと眉毛が真一文字で、映画に出て来るような兄さんだ。
「ウッ!怖そうじゃん!」
卓は静かにハンドルを握っていたが、そのうち「グルグルグル~ッ」と腹が鳴り出した。
「ウン!?・・・ハテ・・・?」
そう思うや差し込むような痛みが襲ってきた。
「しまった~!さっき食べたトンコツラーメンで刺激を受けたか~」
トンコツが格別美味いと評判の店である。
大盛りを食べたのが良くなかった。
クルマは既に本郷通りにさしかかっていた。
「あ~もうダメ!ダメ!誰か~!」
卓は心の中で、叫んでいた。