走り出して、10数分が経過した。
「沈黙が気まずいと思うなよ・・・話したがらないお客様もいらっしゃる」
田中主任の言葉である。
「このままで良い・・・無理に話しかけなくても・・・」
卓は自分に言い聞かせた。
やはり上から行くと速い!
都内の街並みやビル群がグングン、後ろへ飛んで行く。
「キミ!もう慣れたか!」
突然、部長の声がした。
「ハッ!ハイ!・・・何とか、頑張っています!」
「それは何より・・・」
部長の声に身が引き締まる。
「何か、不備があったかな…イヤ、ないない・・・」
卓はもう一度、自分に言い聞かせた。
それよりなにより、この乗客が、卓をしっかり覚えていたことの方が、驚きである。
「とにかく、この口うるさい、おっちゃんを・・・イヤ、お客様を安全に、目的地である本社まで、お送りする事だけに集中しよう・・・」
卓は、自分を落ち着かせた。
その後、高速を走る事10分程で、卓は異変に気が付いた。
後部座席に座った部長の様子が変である。
ミラーに目をやると御仁の顔は真っ青で、小さく「うう~」と唸っている。
「いかがなさいました・・・」
心配になり卓が声を掛けると・・・
「イヤ・・・その・・・つまり・・・腹が・・・ト・イ・レ~」
先程の、神経質な中にも威厳を保とうとする部長が、苦痛に顔をゆがめ唇を噛みながら、小さくうめいていた。
来週へとつづく