配車は大手出版会社正門前である。
守衛のおじさんとも、挨拶を交わせる仲になった。
卓はいつも自分から挨拶することを心掛けている。
今日も窓から「ご苦労様です!」と元気に声を掛けると「お疲れさん!」とニコヤカな返事が戻ってきた。
「今日は本社の部長さんが、戻るんで、上から行ってくれる?」
守衛さんの声に「承知しました」と返す。
「上で行く」とは「高速で行ってほしい」ということである。
その逆は「下で行く」という表現で、高速には乗らず、文字通り通常の道路を走るという事である。
「この時間帯に、有り難い!」
卓は、運転席から降りて客席のドアーの前で乗客を待った。