卓の会社は最大21時間拘束で、休憩時間は必須となっていた。
夜半の営業に向けて、少し、ウトウトするつもりである。
ただ横になるだけでも、疲れはある程度、解消されるということを卓は知っていた。
酒もたしなむ程度、タバコは30代に入り、きっぱりやめた。
この業界、ストレスがハンパではない。
酒やタバコ愛好家は多いが、ストレス解消の為にと、卓はスポーツジムのプールに通っている。
酒で忘れてしまいたい厳しい現実もある。
しかし、卓は酒やタバコが原因で、第一線から退いた先輩を多く見て来ただけに、健康への気配りも充分、心掛けるようになった。
1時間ほど、うつらうつらしたであろうか。
携帯に仕掛けたベルが、優しく鳴った。
「さあ!がんばるぞ!午前中、翔太や、おじいさんの件で、随分、時間とってしまったし・・・」
卓は、そう思いながら、顔を洗い、軽く口をすすぎ、ストレッチを行った。
乗車した途端、無線が入った。
「オッ!ヤッタ~!」
大手企業の正門前からの配車は、必ずロングが掛かる。
この無線配車も、運よく長距離営業であった。
卓は気合を入れて、ハンドルを握りアクセルを踏んだ。