「お父さん!どこに行ってたの・・・」
卓と翔太の祖父が戻った10数分後、翔太の母親と翔太が、帰って来た。
「じいちゃん!大丈夫?」
翔太が祖父の顔を覗き込むように尋ねる。
「ああ!悪かったね・・・」
祖父は照れくさそうに呟いた。
卓は玄関近くに翔太の母親を呼び、小声で話した。
「翔太君が来るという事を聞き、迎えに行きたくなったそうです」
「迎えに・・・ですか」
「ええ、久しぶりに来る翔太君をバス停の前で待っていたかったようで・・・」
「どこにいました?」
「結局、バス停までの道順が分からなくなったようです・・・それで、公園のベンチに・・・」
卓は、リビングにいる翔太の祖父を気遣いながら話した。
「時々、分からなくなるみたいで・・・買い物に行っても何も買わず、帰って来たり・・・
申し訳ございませんでした・・・お付き合いをさせてしまいました」
翔太の母親は、心から詫びた。
「翔太君のお母さん、お爺ちゃんのお世話や、明日から翔太君もバスでの通学で、大変だと思いますが、頑張ってください」
思いやりのある卓の言葉に、翔太の母親は、いたく感動したようであった。
「ありがとうございます」と深いお辞儀をしながら
「翔太!タクシーのおじさんに、ご挨拶して!」と翔太を呼んだ。
「おじちゃん!ありがとう!また乗せてね!」
奥から跳んできた翔太が、屈託のない笑顔で笑った。