卓は、住宅街を抜け小さな公園を横目に、足早にステッキを持った老人を探した。
白髪で、中肉中背、黒縁のめがね・・・しかし、どこにもそれらしき老人の姿は見当たらない。
「どこなんだ・・・翔太のおじいさん・・・」
独り言を呟きながら、駆け足になるのを感じながら「焦っちゃあダメだな」と自分に言い聞かせた。
「やっぱり、いないな・・・」
卓は一旦、戻ろうと決め、もと来た道を走り出した。
さっきの小さな公園に、さしかかった時である。
「あれ?」
木の横にあったベンチを見落としていたのだ。
「いた!」
ベンチに腰かけたお年寄り!
ステッキが、ベンチの横に立てかけてあった。
卓は素早く駆け寄り「あの~翔太君のお爺さんですか?」
「翔太?・・・翔太・・・」
老人はハタと考え込んでいる様子である。
「ええ、翔太君です・・・」
「アッ!孫ね!うちの孫の事だね・・・」
老人の目が輝いた。
「ええ、そうです・・・今、皆さん、探していらっしゃるんです」
卓は安堵しながらそう告げた。
「あ~そうですか・・・道が分からなくなって・・・どうしようかと思っていたところです・・・お恥ずかしい」
老人はすがるような目で卓を見ている。
「ご一緒します・・・お二人を、お乗せしたタクシー会社の者です・・・一緒に探していたんです」
「はあ、ありがとう・・・ありがとう・・・助かった・・・」
老人が、何度も呟くのを聞きながら、卓は何故か虚しくなるのを抑える事が出来なかった。