それからの卓は、人が変わったように打たれ強くなった。
「へこたれない自分!」「このままじゃあ情けない!」その思いを呼び覚ましてくれたのは、田中だった。
人は何でもない事で、つまづき、単純な事に、動機づけされ立ち上がれる。
今までの卓は、「周りを変えようと焦っていた」ことに、卓自身が気付いたのである。
「周りで自分を気遣ってくれれば・・・周りで自分を認めてくれれば・・・周りがおかしい!」と思い込んでいたことが、愚かしく思えた。
「自分が変わる」その事を、教えてくれたのは田中である。
「お客様の身に何かあったら大変だ・・・それがこの仕事の難しさだ・・・」
いつも田中が、語り続けた言葉の意味が、ようやく分かって来た。
事故を起こした時はショックが大き過ぎて、萎えそうになったが、「教訓と経験」を積み、会社から「辞めろ」と言われない限り、ここに居たいと思い始めたのも、良き上司に恵まれたからだ。
「この仕事、合ってるかもな・・・」
そう思言い始めた頃から、仕事が俄然楽しくなってきた。
確かにきつい仕事ではある。
しかし頑張れば頑張るほど、実入りが良くなることも魅力の一つで、月5万を母親の通帳に振り込めることは、何より嬉しかった。
祖母の面倒を看ている母への感謝と恩返しのつもりである。
「田中さんと出会えて良かったなあ」
卓はつくづく、そう思うのだった。