変われば変わるものである。
大学受験の時までは、周りの影響もあり、一応頑張ってはいたものの、大学に進むや否や「遊ばなければ損!」とばかりに、遣りたい放題の日々を送った。
それでも運よく卓が大手の不動産会社に入社出来たのは、まだ、国内の経済事情が、悪化する前の時代であった為、上手くその流れに乗れたと思っている。
しかし、そこでの競争は熾烈を極めた。
安穏とした生活を送ってきた卓にとって、まさしく戦場の日々が待っていたのである。
いつしか「自分はダメ!なにをやっても・・・」との思いに襲われ、覇気を失くした。
次々と不備を問われる毎日・・・
そのうち上司は怒鳴るようになった。
今、思い起せば「怒鳴りたくもなる状態」だったのだと少しは理解できる。
しかし、怒鳴られて気分が良いわけはない。
このタクシー会社でも、そういった悪循環が待ち受けていると覚悟はしていたが、ここには同じ苦労を共にする仲間同士の連帯感というものがあった。
それと、やはり厳しくもあり、優しくもある上司に囲まれているといった要因が、卓の人生観を大きく変えたのである。
「人の命を運ぶ仕事」分かりやすく言えばそうである。
『人命尊重』の理念が最初に来なければ、ハンドルは握れないとの思いに突き動かされ今日まで、頑張ることが出来たし、それを教えてくれたのは会社や上司であることも、また事実であった。
いつしか、卓は優良乗務員として、表彰を受けるまでになっていたが、一番喜んでくれたのは、他でもない田中主任である。
今日も朝から、卓は布団を蹴飛ばし跳ね起きた。
「ヨウシ!稼ぐぞ~!」
ヤル気満々とは、このことである。
最初の仕事は運よく無線で取れた。
その後も、数回、無線配車を受け稼ぐことが出来たので、卓はすこぶる機嫌がイイ!
乗客を駅で降ろすと、そのまま構内を出るつもりでハンドルを切った時のことである。
駅エレベータ下の柱にもたれて、小学校低学年位の男の子が、大きなリュックを背負い泣いているのが、目に飛び込んできた。