玄関前で、翔太と翔太の母親が待っていた。
「川浦さん!申し訳ありません!心あたりは殆ど探したんですが、どこにもいなくて・・・」
青ざめた母親に「大丈夫です!きっと見つかりますから・・・」と卓は力強く答えた。
「おじちゃん!今日、防災アナウンスもしてもらったんだよ!」
翔太が興奮気味で話し掛けた。
「お母さん、それが何時頃ですか?」卓が尋ねた。
「午後に、2度ほど、アナウンスして頂きました」
「それから3時間ほど経ちましたね」
「はい」
それにしても、市内から何の情報も寄せられないということは、別の場所も考えられる。
「お母さん、もしかして他に、住んでいらっした場所ってありませんか」
「あります」
「どこですか」
「国分寺です」
「国分寺!?」
なんと、昨日、卓がいた富山の家から近い場所であった。
聞いてみると、富山と里奈の処から10数分しか離れていないことが分かった。
「昔、そこで生まれて・・・私がその近くにある女子短大に通っていた頃まで、住んでいました」
「そのご自宅は?」
「今は、マンションが建っていると思います」
「お母さん!多分、そこにいらっしゃるような気がします」
「国分寺にですか!?」
「認知症の方って、結構、いい思い出のある場所を瞬間的に思い出すらしいんです」
「そういえば・・・父は国分寺が一番落ち着く街だって言ってたことがあります」
「その町に、連絡の取れる方はいませんか?」
「いません・・・」
「そうですか・・・じゃあ、行ってみますか・・・?」
「わかりました!お願いします!今、財布を持ってきます」
家の中に駆け込む翔太の母親に、卓が声を掛けた。
「ちょっとした着替えも必要になると思います・・・」
プロドライバーの勘なのか・・・どうもそちらの方に強い物を感じるとしか言いようのない実感が卓を覆う。
「この時間、ここからだと1時間以内で着きますから・・・」
乗り込んできた翔太と母親を元気づけようと、話し掛けた。
「ええ・・・居てくれるとイインですけど・・・」
母親は大きく溜息を付いた。
「お母さん!大丈夫だよ!このあいだも、おじちゃんが見つけてくれたじゃん!・・・ぜったい国分寺だよ!」
翔太が母親を励ました。