「あ~セイセイした!オレは今日から自由なんだ!・・・自由だァ~!」
こんな解放感を感じたのは、大学受験の発表の日以来である。
あのネチッコイ課長の視線に耐える必要もない。
「キャッホ~自由だ~!」
帰りの車の中で、卓は叫んだ。
「このまま、湘南辺りまですっ飛ばすかあ~」と思ったが、ガソリンが持たない事に気が付いた。
月末の給料日前である。
退職に伴い清算される給料は、大切に使いたいと思う。
「仕方ない!帰るか~」一人呟くと、ワンルームマンションへと向かうことにした。
考えて見れば彼女もいない・・・一人、湘南の海を見たところで、また一人で帰って来るのが「面倒」だとも思う。
しかし、浮き立つ気分は抑えられなかった。
一日目はパチンコをし夜は映画を鑑賞。
帰りに居酒屋で一杯・・・気分はすこぶる良好。
二日目は昼まで寝て、午後から本屋へ回り夕方から幼馴染がやっている、これまた居酒屋へ・・・
この解放感が永遠に続くような、錯覚にとらわれる。
しかし、拘束感が無くなった自由な実感も、父親の「バカ野郎!何考えてんだ!」の一言で、フェードアウトした。
「これからヨメをもらって所帯を持とうって時に・・・」母親の溜息交じりのか細い声が胸を締め付けた。
その数週間後、心配して声を掛けたくれた元の職場の先輩の紹介で、小さな不動産屋に就職したものの、やはり馴染めない・・・
結局そこも辞め、数ヶ月、遊んだが、タクシードライバーに転職した友人の紹介で、今のタクシー会社に決まったのは卓にとって、ラッキーなことであった。
つづく