「サア!火曜だ!」
火曜の交番日早朝は、いつも前夜に仕掛けた目覚まし時計の、けたたましい音で目覚める。
川浦 卓・35歳、独身。
このタクシー会社に入社し6年目を迎えた。
タクシードライバーという職業が、こんなにも自分に合っているとは思わなかった。
某大手不動産会社に務めていたが、上司との折り合いが上手くいかず、成績も振るわない。
後から入社した若手が、主任、係長と昇進していったが、川浦はどうも出世とは縁遠い。
一言でいうと「欲がない」のだ。
接客は嫌いではないし、人付き合いも不得手ではないが、客にガッツクような執念と情熱が足りないと、自分でも分かっている。
「がむしゃらになることが、キライ」な男であった。
ある年の年度末「お前!ここへ来て何年になる!・・・ホント、使えないヤツだよ!ったく!」
課長に嫌味たっぷりに言い放たれた。
「あのさあ!ヤル気がなければ自分で結論出すしかないんじゃあない!」
相手の言っている意味は、充分わかった。
「分かりました・・・今日で辞めます」
あっという間に『退職届』を書き、静かに上司の机上へ。
資料ファイルやパソコンの中の情報など、一連の報告と引き継ぎを行った。
あっけにとられている皆の視線をよそに、「お世話になりました~!」とお辞儀をすると、卓は颯爽と廊下へ飛び出した。
つづく