「私は、お二人の、ご結婚までの立役者などと考えた事はございません」
卓の祝辞が始まっていた。
「合縁奇縁と申します・・・考えますと、この世は、ご縁で成りったっていると思います・・・タクシードライバーをしながらこの事を、深く強く感じました・・・お乗りになるお客様とは何らかのご縁があってのこと・・・そのご縁を大切にしたいと思ってのことでした・・・お二人、このご縁を大切に、共に白髪が生えるまで、お幸せに・・・」
素朴ではあるが、心のこもった温かい祝辞となった。
拍手の中、卓は充実感を覚えニッコリ微笑んだ。
動じる事のない、落ち着いた態度に、参加者は拍手を送り続けた。
考えて見れば、沢山の乗客を乗せながら成長してきたのである。
そのスジと分かる乗客も、思ったより親切で、静かな人が多い事も以外であった。
認知症のお年寄りや、幼い子供達を乗せた事もあったし、大企業の役員や、公務員、夜の仕事を終えて帰宅する女性、心も体もぐったりのサラリーマン、無賃乗車の常習者や、犯罪を働き、追われている逃亡者を乗せた事も・・・しかし、卓はその全てが『人間としての修養』と受け止めて来た。
常に落ち着き冷静でいないと、動揺の連続になるため、自己統制や自己管理法も自然に身に付いた。
その過程で、知り合った数多くの人々・・・卓は今の自分に充実感を覚えている。
であるが故に、はたから見ると魅力的に見えるのであろう・・・
披露宴は、お色直しや、お祝いの歌などが続き、オヒラキとなる直前、綾子と賢哉が、卓のテーブルに来た。
「川浦さんのお陰よ!ホントにありがとう!」
「これからも宜しく!僕たちを宜しく!」
新郎新婦が顔を紅潮させ、卓の手を握った。
幸せな瞬間である。