場所から推察すると・・・
「無賃乗車の・・・」
そうである。
配車時間が遅かったと難癖を付けて、そのまま立ち去ろうとしたあの若者である。
逃げる男より先回りをし、捕まえて、こんこんと話した。
結局、乗車料金を支払っていったが、その男が、また何の用なのか。
不審に思いつつも、卓は指示された場所へと車を走らせた。
あの駐車場の近くである。
男が手を挙げている。
卓はドアを開けた。
「ありがとうございます」
表情を変えることなく、態度も変えない毅然とした卓に、おどおどしつつ男が乗り込んで来た。
「お久しぶりです」
卓が、ニッコリ微笑みながら声を掛けると、始めて、ひと息吐き安堵の表情を見せた。
「あの時は、ホント!すみませんでした」
「いえ、正直言うと、忘れていました」
「あれから自分!なんかずーっと落ち着かなくて・・・」
「落ち着かない?」
「はあ~今まで、けっこう突っ張って来たんすけど・・・あんなに親身になってきつく叱られたこと、ないんすよ」
「ああ~そうおっしゃってましたね」
「なんか、あれから自分の事、すごく分かってきたような気がして・・・いつか、会ってお礼したいと思ってたんすよ・・・」
「そうですか」
「ホント、あの時はご迷惑掛けたっつうか・・・今考えたら、情けないっす・・・」
「いいじゃないですか・・・で、仕事頑張ってますか」
「ええ・・・実は工務店で働いてます」
「工務店で・・・?」
「はい・・・昔から、建設現場で働くのかなり、気に入ってるんで・・・高校も専門学校も、そっちの学校だったんで・・・」
「じゃあ、建設一本で!?」
「はい!そのつもりです」
「それは良かった・・・おめでとうございます」
「あざ~す」
「で、今日はどちらへ・・・」
「実家に就職の報告に・・・」
「そうですか・・・ご家族、喜ばれるでしょうね」
「ええ・・・多分・・・」
卓は指示された隣町まで向う間、木山と名乗るこの若者と、色々な話をした。
若者をミラーで見ると、けっこうイケメンで素直そうな表情を見せる事に気が付いた。
「根はイイヤツなんだな・・・」
目的地に着き、料金を支払いながら若者が言った。
「あの・・・」
「はい」
「あの・・・お願いが・・・あるんすけど・・・」
「はい」
「あの・・・」
「はい」
「あの・・・これからも乗ってイイすか!」
「モチロンです」
「で、その・・・時々、話聞いてくれませんか・・・」
「私で良ければ・・・」
「良かった・・・今度、付き合ってる彼女の事、話します」
「はい」
「それで・・・」
「まだ、何か・・・」
「あの・・・子分にしてくださいっていうか・・・」
「そういうの、あんまり好きじゃあないんで・・・でも、兄貴って呼びたいんでしょう!?」
「はい!」
「イイですよ・・・そう、呼んでも」
「あざ~す!アニキ!」
「おう!」
卓も「乗っちまったぜ~」と、ひとり、苦笑を浮かべるのだった。