久しぶりに翔太の家から、電話が入った。
その日の出番、昼の休憩を終えたところで、無線配車となったのだ。
もちろん「川浦さんで、お願いします」との指名である。
先日から週に一度は、電話が翔太の家から入るようになっていた。
翔太の祖父、自ら理解納得した上での、施設への転居であるが、翔太の母親が、週に一度は会いに行くのである。
人によっては、寝室となるスペースが、家より狭いと騒ぎ始めるお年寄りもいた。
しかし、「家に帰りたい」と願い出れば、症状によっては自由に帰宅が認められている施設である。
お年寄りのグループごとに、将棋や囲碁、コーラスや庭いじり、書道や華道のクラブ活動が、積極的に行われ、翔太の祖父の状態は、かなり良好であった。
昔、住んでいた国分寺の自宅跡で、倒れていた時は、皆が絶望感に打ちひしがれた。
しかし、勇気を持って施設への転居を決めた途端、翔太の母親の疲労感はもとより、祖父自身の症状も和らいで来たことは、皆の慰めとなっていた。
この日も翔太と母親が家から、45分ほど離れた、施設まで季節の着替えを持って出掛けるという。
「おじちゃん!」
「よう!元気かい!」
「うん!」
「川浦さん・・・お身体、大丈夫ですか!」
翔太の母親が乗り込みながら聴いた。
「ええ、ご心配お掛けしました」
「でも、元気になられて良かった」
「ありがとうございます」
翔太の祖父の蓄えで、この親子は、週一度、タクシーで通うことが出来る。
「私、逆に父に感謝しています」
翔太の母親が呟いた。
「川浦さんが、おっしゃたように、私はまだ恵まれています」
「・・・」
「ホントにいろいろとお世話になりっ放しで・・・」
「いいえ、それも仕事だと思っています」
「ありがとうございます」
微笑む母親に翔太が、声を掛けた。
「お母さん!おじちゃんはね・・・無敵なんだよ!」
翔太の得意気な笑顔に、卓は嬉しくなった。