卓は、並谷を、近くのファミレスに誘った。
「どうして、あんなこと言ったんですか?」
コ-ヒ-をすすっていた、並谷が「俺にもワカンねえ」と呟く。
「・・・いや、意味のないこと、並谷さんのようなベテランがするわけないですよ」
「・・・」
「なんか、あったんでしょう」
「・・・まあな・・・」
「聞かせてくれませんか」
「・・・あの乗客・・・話の中で、アンタ達のような、お気楽な仕事してる人達・・・って言ったんだ」
「え~」
「ナニがお気楽だあ・・・こちとら、身体にムチ打って働いてるって~のにヨ~」
「それで、腹が立ったと・・・」
「そう!俺一人がバカにされたんじゃあなくてヨ・・・仲間がな・・・みんなが、バカにされたような気がしてならなかったんだよ」
「そうだったんですか」
「信じる、信じないは、まあ、オメエの勝手だがヨ」
「いえ、信じます・・・あの、乱暴な乗客なら、そういう表現、考えられる・・・」
「・・・オレ、不器用だから・・・上手く切り返せないって言うか・・・難しいな・・・この商売はヨ~」
卓は安心した。
ただの曲者でも、ヒネクレ者でもなかったのだ。
「並谷さん!思ったよりず~っと、イイ人でした」
「何言ってんだ・・・褒めんなよ!」
「いいえ・・・詫びてるんです・・・並谷さんに・・・誤解してた部分があったんで・・・」
「誤解されっ放しの人生だよ・・・こちとら・・・」
「だけど、多少、並谷さんにも責任はあります」
「・・・」
「先ず、敬語を遣う努力が必要です」
「敬語ねえ・・・」
「ええ、口下手は、なおります・・・ある程度ですが・・・」
「・・・」
「その口調や言葉遣いが誤解を招くんです」
「・・・」
「先ず、です、ます・・それから・・・言葉に、お、ご・・・を付ける・・・」
「・・・」
「お時間、お勘定、お釣り、お金、ご住所、お名前、お世話、お力・・・」
「・・・」
「少しずつで、イイですから、頑張りませんか」
「・・・」
並谷は残りのコ-ヒ-をすすった。