「すみませんでした・・・」
里奈が頭を下げて詫びた。
「私のこれからを思っての事なのに・・・私、憎まれ口、叩いてしまいましたね」
「いや、僕の言い方が、不自然だった・・・すまない・・・」
「感情的にならず、私も冷静に考えて見ます・・・でも、結婚してもこういう問題は起こり得ると思うんです・・・立場が逆って場合もありますし・・・」
「・・・」
「あまり考え過ぎないようにしてくださいね」
「ありがとう」
里奈は長居せず、席を立った。
こういうところは親友である富山の妹だけの事はあって、さっぱりしていると、卓は思う。
切り出した『別れ話』にも、感情を切り替えて、冷静に受け止めてくれたことも、有難いことである。
確かに、明るく健康で聡明な女性であることは事実だ。
この女性と別れたら、いつまた、素晴らしい出会いがあるだろうとも考える。
しかし、卓はどうしても、この状況での結婚は困難な事のように思えてならない。
自分から身を引かなければ、里奈は自由になれない・・・
里奈の愛情に甘えてはいけない・・・卓は迷いに迷った挙句、別れ話を切り出したのだ。
弱気になったせいか・・・涙が溢れそうになった。
その時である。
メールの着信音が鳴った。
里奈からだ。
「今、タクシーの中です・・・卓ちゃん!私の事、心配してくれてありがとう・・・卓ちゃん!投手が肩を壊して上からは投げられない・・・そうなって、その人は投手をやめるでしょうか・・・勿論、人それぞれかも知れません・・・でも、私は、肩を痛めていてもサイドスローならまだやれるって考える人が、強い人だと思います・・・
囲碁でもそうです・・・相手にハンディを付けて楽しむ碁もあるんです・・・余り、自分に厳しくし過ぎると、苦しいだけ・・・人生をもっと楽しんでも良いと思います・・・卓ちゃん、真面目でカッコいいんだけど、ストイック過ぎるのも、どうかしら・・・今度の事で、私の気持ちは更に強く固まりました・・・私、別れません・・・いつまでも一緒です!ご迷惑でなければ・・・^^¥」
携帯の画面に涙のしずくが、ころがった。