里奈からのメールが、随分溜まっている。
何度か電話もあったようだ。
このままだと、余計心配を掛けると思った卓は、返信メールを送った。
「何度も、連絡してもらったのに、返信できず申し訳ない・・・実は驚かずに読んでください・・・」
事件に巻き込まれた事、帰宅して寝起きに倒れたこと、病名の事・・・
病院に運ばれて数時間眠り込んでいたことなど・・・
ほどなくメールが返って来た。
「・・・今すぐ、病院に伺います」と。
事態を誤魔化すわけにも行かず、卓にはきちんと、話すべきだと思うこともあり、里奈の到着を待つことにした。
夕方近くになって、里奈が病室のドアーを開けて入って来たのを見るや「ヤア!」と卓は微笑んで見せた。
「ビックリしました!・・・兄は明日、来るそうです」
「イイんだよ・・・忙しいの分かってるから・・・」
「父も母も、仰天してしまって・・・」
「面目ない・・・」
「どうなんですか・・・病状は・・・」
卓は、正確な内容を伝えた。
里奈は驚きを隠せずにいたが、「でも、これで済んで良かったわ・・・」と、溜息を付いた。
「驚かせてしまったね」
「ええ・・・」
持ってきた花を、活けている里奈の後ろ姿を眺めながら、卓は切り出した。
「里奈ちゃん・・・」
「はい」
振り向いた里奈に卓は、病気を抱えながら治療とリハビリ、そして仕事復帰と、大変な課題が横たわっていることを静かな口調で話した。
「卓ちゃん!何を話したいのか分かります」
「そう!?ありがとう・・・」
「つまり、私に迷惑を掛ける事を懸念してのことですよね」
「・・・うん」
「だから、このまま無かったことに・・・別れたいという事ですよね・・・」
「・・・うん」
「・・・」
「里奈ちゃんは僕より七つも若い・・・」
「だから!?・・・だからナニ!」
「里奈ちゃん!これから僕は退院しても実家で、当分暮らすことになる・・・母には面倒掛けることになるけど・・・」
「・・・」
「けど、里奈ちゃんには、これからやりたいこと、しなければいけないこと、沢山あるはずだ・・・野菜ソムリエとして・・・今、一番乗ってる時じゃあないかな・・・そんな時に、僕の看病やなんやで、時間を費やすなんて・・・・結婚しても、きみのフォロ-は必要になるだろうけど、そうなれば里奈ちゃんの大切な時間を奪う事になる・・・」
「卓ちゃん!それが分かれる理由?」
「・・・」
「それなら、カッコつけずに、今は一番自分の事が大切だと言ってくれる方がマシ!・・・私の事より、今は自分の事で頭がイッパイ・・・って言ってくれた方が、女はまだ納得いく・・・分かれるのに、やさしい言葉は禁物です・・・それって、ズルい男のすることですよ・・・」
涙も見せず、凛としたした口調の里奈を、卓はじっとみつめるだけであった。