「ねえ!急にそんなこと言われても、川浦さんだってご迷惑よ!」
里奈が、少し怒ったような表情を見せる。
「あら!そう?川浦さん!ご迷惑?」
富山の妻が、問いかけた。
「いえ!迷惑だなんて・・・」
こわばった表情で、なんとか笑って答える卓に「だったら、一度、二人!考えて見ろよ!」と富山が追い打ちを掛けて来た。
「もう!いいから!この話ナシナシ!」
里奈が遮ったが、「でも、二人、お似合いかも・・・」と静かに富山の母親が呟いた。
「そうだよ!里奈!ご縁なんて、どこに転がっているか分からないんだからね・・・」
父親の言葉に里奈は「ハイハイ!分かりました!」と、頷きながら、トマトサラダに手を伸ばす。
「里奈!自分だけじゃあなく、卓にもとってやれ」富山が、声を掛けた。
「おにいさん!シツコイ!もう!」
里奈の言葉に卓は、ひたすら笑うしかなかったが、その顔はまんざらでもなさそうだと、富山は読取っていた。
今まで、黙々と食べていた富山の子供達、小学5年生の息子と、この春、小学校へ入ったばかりの娘が口々に言った。
「いいじゃん!結婚しちゃえば!」
長男の言葉に、娘までが「じゃあさあ!川浦のおじちゃん・・・
里奈おばちゃんの旦那さんになるっていうこと・・・?」と、きょとんとした顔で聞いた。
「お前さあ!決まってんじゃん!結婚するっていうことは・・・そういうことだよ!」
長男の言葉に、家族が声をあげて楽しそうに笑った。
食事が終わり、風呂にも入り、卓が富山とビールを飲んでいると、「じゃあ・・・お先に!」と風呂から上がったばかりの里奈が、二階に上がろうとした。
「里奈!」と富山が呼び止める。
「おにいさん!私、今、すっぴんだし・・・」と里奈が言うと
「だからイインだよ・・・とにかく来い」と富山が譲らない。
「わかった・・・今、髪だけ乾かして直ぐ来ます」
顔を紅潮させた里奈は、風呂場へと、戻って行った。