その乗客が、面接会場に間に合った事は言うまでもない。
帰宅後、夕食のテ-ブルを囲みながら奈央は家族に、その話をした。
「分かる・・・その人の気持ち・・・その人、ママと話せて良かったよ」
娘の優衣が、大好きなヒレカツを頬張りながら話す言葉に、息子の雄也が応えた。
「それが被災地の現状なんだと思う・・・」
「どういうことだ?」夫の一郎が尋ねた。
「結局、人の辛抱って限界があるんじゃないかと思う・・・俺の友人も一人、東北から来ているけど、いつも明るく振る舞っていても、なんか遠くを見つめている時がある・・・」
「そんな時、どうするの?」奈央が聞いた。
「そっとしておくけど・・・疎外感みたいなものを抱かせないようにしようぜ!って皆で話しあった」
「なるほど・・・」一郎が頷いた。
「被災地の人達、ホントに辛いと思う・・・オレだったらもうとっくに壊れてる・・・その乗客の人・・・もう疲れるだけ疲れていたんじゃないかな・・・誰にも弱音吐けなかったんだと思う・・・」
「そうだな・・・今まで東北支援して来たけど、風化しつつあるし・・・」
夫の言葉に奈央が応えた。
「風化は止められないもの・・・でも、忘れちゃあいけないことは沢山あるし・・・今も東北は大変な問題、山積みだからね・・・」
「こうやって当たり前の生活、出来る事が大切・・・皆で暮らせる事が幸せ・・・」
優衣の言葉に奈央は考えた。
「東北・・・忘れちゃあいけないんだ・・・ホントに!」
奈央の会社でも毎年、東北支援を行っている。
チャリティ-コンサートやバザ-を始め、数多くの社内イベントを通し、数百万円を送り続けて来た。
それでも会社では「まだまだ、足りない!継続だ!」と話しているのを聞いたことがある。
東北に向けて様々なメッセ-ジを発信したり、受け止めたり・・・
「彼女、どうなったかな・・・」
奈央は気になっていた。