数日後のことである。
「葛西さ~ん!」
その日の出庫点呼を終えて、日報を受け取り階段を降りはじめた奈央に、後ろから呼ぶ声がしたので振り向いた。
運行の金宮主任が、カウンタ-越しに身を乗り出している。
「昨日の夕方、事務所に電話があってね・・・先日、桜元町の面接会場まで乗せてもらった人から・・・」
「ええ・・・」
覚えがある乗客の話に、奈央は階段を駆け上がった。
「その方からの伝言で・・・就職、決まったそうです・・・いろいろ、ありがとうございましたって!」
「本当ですか!?良かったあ~!」
奈央は「今日はイイ日だ!」と満面の笑みを見せた。
「何だか分からないけど、お客様を励ましたんでしょ!」
「励ましたっていうか・・・お話し相手になっただけです」
奈央が応えると金宮が微笑んだ。
「どちらにしてもいいお話なんですね・・・」
「はい!」
奈央は思う。
「良かった!私!ドライバ-やっててマジ良かった~!」
愛車に乗り込んだ奈央が呟く・・・
「ドライバ-!乗客に乗ってもらって、ただ走るんじゃあない!家族のみんな!ママは人に寄り添える元気なドライバ-だよ!」
直ぐに無線が入った奈央の車両が、駐車場を出て行く。
朝の光が、奈央の乗ったワインレッドの営業車両を優しく包んでいた。