「ごめんなさいね・・・差し出がましい事を・・・」
奈央は心から詫びた。
「いえ、イイんです・・・確かに私も今、就活を放棄しようとしていますから・・・」
奈央はこの大人しく真面目な大学生に、何とか前を向くよう伝える術はないものかと案じた。
「こうしたらどうでしょう!?」
奈央の弾んだ声に、女性客が戸惑っているようだ。
「・・・」
「あと、3回だけ、面接を受けて見るんです!」
「3回ですか?」
「ええ・・・3回受けて、それでダメなら次の手を考える?」
女性がオウム返しに聞いた。
「次の・・・テですか・・・?」
「はい!次の手です・・・結構、あるんです!次の手!」
「あの私、つい、東北自動車道なんて言ってしまいましたけど・・・」
「ええ!分かってます・・・なんとなく、故郷に近い処へ行って見たかった・・・でしょ!?」
「そうなんです・・・寂しい時は出来るだけ、故郷に近い処へ行くようにして来たんです」
「ふるさとの訛り懐かし停車場の・・・」
奈央の言葉に女性が続いた。
「人ごみの中にそを聴きにゆく」
ミラ-越しに見ると、女性の頬に赤みが戻ったような気がした。
「石川啄木・・・でしたね」
「はい!」
「きっと、自分を必要としてくれる・・・そんな職場がみつかります!」
「そうでしょうか!?」
「そうですとも!・・・私たちの世代も・・・そうでした!」
「運転手さん!」
「はい!」
「ここから桜元町の駅前まで、どれくらい掛かります?」
「9時までには着きます」
「じゃあ!申し訳ありません!面接会場がそちらなんで・・・」
「承知しました!」
奈央はハンドルを次の交差点できった。
東北自動車道に入る直前である。
面接時間まで「間に合わせるぞ~!」
そう心の中で呟く奈央であった。