葛西 奈央 43歳 タクシ-ドライバ-歴 7年目を迎えた。
36歳の時、このタクシ-会社へ入社し2種免を取得した事故歴ゼロの、優良ドライバーである。
「お母さんに出来るのか?シンドイ仕事なんじゃあない?・・・」
入社7年前、夫の言葉に奈央は、気丈に答えた。
「お父さん!子供達も中2と小5よ・・・子育ても一段落・・・けど、これからは受験があるからね・・・公立に行ければ良いけど・・・私立となると、教育費、相当なものよ・・・それにこの家のロ-ンだって後15年、残っているのよ・・・今、私が働かなくてどうするの?」
「・・・それを云われちゃあ、どうしようもないが・・・」
夫の一郎が遠慮気味に続けた。
「他の仕事じゃあダメなのか・・・」
「お父さん!・・・高校時代の親友で由美子って覚えてるでしょ?」
「ああ、かなり前に子供を連れて実家に戻ったとかいう・・・」
「そう!彼女がタクシ-ドライバ-やってるの・・・先日、同窓会の帰り、偶然同じ電車でね・・・その時、色々聞いたの・・・でね、日勤という勤務スタイルがあって・・・朝、出勤して、夕方、上がることが出来るんだって・・・」
奈央の話に一郎が興味深そうに聞き入る。
「それで、かなり稼げるらしいの・・・各種保険も充実してるし・・・」
「2種免はどうすんだ?」
「ご心配なく!会社で全部!取らせてくれるんだって・・・それに研修期間中は、手当が付くの・・・」
「ほう~」
「ね!いい話じゃあないの!」
「・・・」
「決めたわ!今週中に面接受けるわよ!」
「今週中にか~!」
一郎が目を丸くして驚いた。
「そう!善は急げ!っていうじゃあない!」
奈央は畳んでいた洗濯物を抱え立ち上がった。