「人は一人では生きて行けない!これは亡き祖母の口癖でありました!母は祖母を実の母と思い、介護して参りました・・・祖母はその事を強く感じていたのでしょう・・・常に母には感謝していると申しておりました・・・一人では生きて行けない!その言葉通り、私自身もこれまで、沢山の方々に支えられ助けられ、今日まで頑張って来ることが出来ました」
両親の顔、妹夫婦とその家族、里奈の両親、富山夫婦とその家族、田中主任をはじめ職場の大好きな同僚たち、小・中・高・大の学友たち、沢口夫妻、賢哉と綾子、翔太とその母親、里奈の学友・・・卓は改めて会場を見渡した。
人は一人では生きて行けない・・・であれば、気遣い、心遣いで、周りとの交遊を深める事が一番である事、人に変われ!と言うより、先ず、自分が変わる努力をする事、そうすれば大体の事は上手く進むであろうこと・・・卓は今までの自分の人生を省みながら、力を込めて語った。
「お父さん!お母さん!職場の田中主任はじめ、大好きな皆さん!これからもタクシードライバーとしての自覚と責任を抱きながら、お客様の為に!心を込めて走って参ります!里奈と一緒に、この道を邁進致します!皆さん!これからも、この一つの道を走り続けます!本日はありがとうございました!」
鳴りやまぬ拍手の中で、卓は心に誓った。
「俺は走る!走る!心を込めて!この人生と言う道を!・・・皆さん!俺!走ります!」
テラスから降り注ぐ暖かな日差しも、二人の前途を祝福していた。
卓と里奈は顔を見合わせた。
微笑む二人!
卓はこれからも、この愛する地で、胸を張り生きて行きたいと思っている。
法令遵守を徹底すれば、営業力が弱体化するという難しい一面も、この業界が抱えた問題ではあるが、それでも、卓は今の会社で真っ直ぐに考え、進む事を常とするつもりだ。
卓は今、タクシードライバーの仕事を誇りに思う。
人の命を守り、安全を運ぶ高邁な精神で、一日一日を充実させて行くことだろう。
幸せなこの二人を、会場の鳴りやまぬ拍手がいつまでも、いつまでも、温かく包み込んでいた。
完