前日、鈴木は式場のあるホテルに、夜遅くチェックインしていた。
万が一のことも考え、用心深く、ホテルの部屋をとったのだが・・・
挙式、新婚旅行で、休暇を取る分、この1ヶ月、働きづめで頑張って来た極度の疲れと、挙式を迎える緊張で、一睡もできずに夜明けを迎えた頃、ようやく睡魔に襲われた。
それが、6時過ぎのことである。
フロントに目覚ましコールを頼んだまでは良いが、そのコレクトコールが7時だったのである。
寝ぼけながら受話器を上げ、直ぐに切るや、鈴木は深い眠りに落ちていった。
時間は刻々と過ぎて行く。
卓がフロントに立ち寄らなければ、どうなっていた事か・・・
「挙式前日にホテルに泊まります・・・寝坊助なんで!」
以前、鈴木と飲んだ時、何気ない会話で、鈴木本人が言った言葉を卓が、思い出したのだ。
念のため、卓はフロントに確認をとったのである。
「鈴木賢哉さんが、今日こちらの式場で、結婚披露宴の予定を入れているのですが・・・」
「はい・・・コレクトコールを7時に致しました」
パソコンの画面上から記録が出て来た。
「コレクトコール!?・・・すみません!念のためチェックアウトしているか確認願います」
「・・・いえ、今日の夕方までの予約ですので、チェックアウトは、されておりませんが・・・」
やはり、フロントの係が、パソコンから確認をし答えた。
「そうか!」
卓は事情を述べホテルマンと、鈴木の部屋へ向かった。
チャイムを鳴らしても、出てこない。
マスターキーで部屋の鍵を開けてもらう・・・
鈴木は布団を、すっぽり被ったまま、夢の世界である。
「鈴木さん!鈴木さん!」
時計は11時30分を回った。
揺り起こし、やっと目覚めた鈴木に理由を述べる・・・飛び起きる鈴木!
シャワー室へと急ぐ足に布団が絡まり、ドスン・バタンと床に倒れる鈴木!
卓が手を貸し、シャワー室へ!
「冷た~い!」
お湯ではなく水のシャワ-に声を上げる鈴木!
「水でもイイじゃないですか!目が覚める!」
卓が叫ぶ。
マスターキーで部屋を開けてくれたホテルマンが、クロ-ゼットから式服を取り出し、靴を揃える。
洗面台の前で、髭を剃る鈴木の頭を卓がドライヤーで乾かしながら、携帯を耳に挟んだまま、綾子に連絡を入れた。
「綾子さん!いました!鈴木さん!ホテルの部屋です・・・鈴木さん、携帯を忘れて来てたんです」
「分かりました・・・集合写真の準備を、するよう伝えます」
一旦は、解散し式場に向かった親戚が、写真室に集められた。
「鈴木さん!急いで!」
卓の声に、鈴木が腰に巻いたバスタオル・・・意地悪くハラリと床に落ちた。
「あれ~」
鈴木がすっとんきょうな声を上げた。
「鈴木さん!恥ずかしがってる場合じゃあないです!パンツは!パンツ!」
「あッ!はい!その引出に!」
引出から新しいボクサーパンツを取り出し、子供にはかせるように卓が鈴木の足元にパンツを広げ、ホテルマンはシャツを着せた。
卓の眼の前にぶら下がる鈴木のムスコ!
「ウワッ!デカッ!」
卓が驚きの声を上げた。