「川浦さん!どうしよう!」
来賓席に着いた卓のもとへ、式場のマネージャーが「川浦様ですね・・・ご新婦様がお呼びです」と伝えに来たので、急ぎ、川山綾子の着替え室に飛び込んだ卓は、仰天した。
「川浦さん!あの人、来てないの!」
純白のウエディングドレスに身を包んだ、綾子が涙ぐんでいる。
「エ~ッ!鈴木さんのことですか!?」
「そう!」
「どういう事ですか!」
「今朝、私は9時に式場に入り、彼は10時の約束だったの・・・今から集合写真を撮るというのに、まだ来ていないんです・・・」
卓は腕時計を見た。
11時15分である。
二人の写真と家族同士の集合写真は11時からとなっていた。
写真撮影の後、そのまま、入場となっていることは、充分、納得しているはずだ。
二人の式は人前式である。
12時きっかりに入場の手はずが整っているが、新郎の到着が遅れるとなると、これからの式進行にも、差し障りが出る事は必至だ。
「川浦さん!ナンか、良くない予感がするの!」
「ダメです!そんな事を思ってちゃあ!」
「でも、時間に遅れるような人じゃあないんです!」
「携帯鳴らして見ました?」
「ええ!メールも返信がないんです」
「・・・」
「あの人、イヤになったのかしら!?」
「イヤって?」
「私との結婚です」
「そんなことはありません!」
「でも・・・」
「鈴木さんがそんな、不誠実な人ではない事を、一番よく知ってるのは、綾子さんでしょ!」
「じゃあ、何故、遅れてるの!こんな大切な日に・・・何か事故でも・・・」
「いいえ!そんなことはありません!大丈夫です!あと、10分待ってみましょう」
卓は廊下に飛び出し、携帯を取り出した。
鈴木の携帯を鳴らしてみたが、電源が入ってないというガイダンスが流れているだけである。
「鈴木さん!どうかしました?」
メールを送ってみたが、やはり返信がない・・・
「どうしよう・・・」
卓は呆然と立ちつくしていた。