その次の日、沢口社長から会社に連絡が入った。
卓の挙式が今月末に、都内のフレンチレストランで行われる事を、他の乗務員から聞き、是非、参加したいとの内容である。
管理者からその旨、伝え聞くと卓は「会社でご許可頂けるのなら、招待状をお送りしたい」と告げた。
沢口社長と、その家族は、数十年の長きにわたり、卓の会社のタクシーを利用して来た顧客中の顧客である。
特に沢口社長夫妻、卓には、かなり個人的な事由で、迷惑も掛けた。
沢口社長夫妻の痴話喧嘩の仲裁までやる羽目になった事を、卓も忘れてはいなかったが、卓本人の中では、この二人を「人間的に可愛い」と思い続けている。
以心伝心と、いうのだろう。
沢口夫妻も卓には特別な信頼を寄せているようだ。
卓はハタと考えた。
あの時、沢口社長の浮気を隠すため、沢口の愛人を自分の彼女だと言い張り、沢口を苦境から救った卓の相手が、例の彼女と違う事は、沢口夫人には、とうにばれている事だが、ばれていると沢口本人だけが、まだ気付いてないのである。
「ああ~ややこしい!・・・何とかなるさ!」
卓は一人、苦笑した。
明日は、綾子と賢哉の挙式である。
早目に目標額を達成した卓は、新しいマンションに戻り、スーツの準備をしようと帰庫準備を進めた。
「あの二人、明日、スタートするんだな!」
自分の事のように、卓の心は弾んだ。