祖母の49日も無事終わり、卓はホッとしていた。
ユックリとコーヒーをすする。
冷暖房機も入り、すべての準備が整った。
「やっと、ここまで来た」と、感慨ひとしおである。
「長かったような短かったような・・・」
そう思いながらも、突き当たるひとつひとつの出来事に、いつも真摯に向き合い、最良と思う方策を講じて来た。
力尽きそうになったこともある。
この仕事で本当に良いのかと思い悩んだことも・・・
しかし、やっとここまで、来たのである。
不器用な自分が、無事これまでやってこれたのも、周りのお蔭であることに間違いはない。
祖母がよく「人間は一人じゃあ、生きて行けない・・・けどね卓!人を頼るようになっちゃあ、おしまいだ・・・自分の事は自分で頑張る!・・・でも、頑張る自分に、手を差し延べてくれる人がいたら、素直に感謝しなさい・・・そして、恩返しをする・・・どんな些細な事でもイイから!・・・そして、また強く、やさしく!生きて行くんだ・・・これが我が家のモットーだ!・・・」
微笑む祖母の顔が浮かんだ。
「ばあちゃんの言う通りだ・・・これからも懸命に、素直に!強く!生きて行くから・・・安心して!」
サイドボードの上に置かれた祖母の写真を見ながら、卓は呟いた。
今、卓はやっと自分と言うものが分かったような気がしている。
世間や周りの流れに呑まれ、自分を見失う事もあった。
自分はホントに、これからここで、やって行けるのか・・・苦しんだこともあった。
しかし卓は今、「全てを師と仰ぎ、己の人生修養とすることが、人として、男として、成長する事」と自分に言い聞かせるまでに成長した。
この思いは、これからも変わらない筈である。
素直に、強く、やさしく!まっすぐに生きて行きたい!
このスタンスが、里奈や沢山の乗客、職場の仲間にも受け入れてもらえたのである。
「全てに感謝だ!」
卓はコーヒーを飲みほした。
明日からはこの新居での暮らしが始まる。
卓が先に入居することになったのである。
卓の胸は希望で膨らんでいる。