『打撲2週間』これが男性に出た診断であった。
しかし、「2週間、働けないので、保障せよ」と、相手が主張しているという。
会社では顧問法律事務所に、この1件を預けた。
「保障をせよ」と言われて鵜呑みにする者はいない。
相手にも、それなりに揃えてもらうべき書類があるのだ。
しかし、調べてみると相手は定職には付いていなかった。
男性に係る他の内容も、法律事務所で把握していた。
相手から会社には一切連絡させず、代理人である顧問法律事務所が話を進める事となった。
結果は2週間の治療費のみという事になったが、この1件で、卓は稟議を願い出た。
「田中係長・・・お願いがあります」
「はい」
点呼に立った田中は、いつものように穏やかな表情で返事をした。
卓も静かに語り始めた。
「ウチの社では、ドラレコを付ける予定はないのでしょうか」
「ドラレコに代わり管理者のリーダーシップや法令順守に係る教育を強化するということになっているので、今、その予定はありません」
「そうですか・・・事故を起こさないという視点からの着想であるとは思いますが、ならば、乗務員の安全を守ると言う視点から、両面式のドライブレコーダーを装備する稟議を上げて頂けませんか・・・」
「わかりました」
「いいんですか!?」
「稟議してみましょう」
「ありがとうございます」
乗務員の安全を守る・・・これもまた、大切な事である。
今回のように目撃証言がない場合、結局「アタリヤ」であると分かっていても、こういった状況に陥ってしまう。
ただ、顧問法律事務所の対処の仕方が良く、事は迅速に、そして法に基づき粛々と進められたのである。
しかし、稟議書が上がる直前、今回の事故内容を聞いた経営陣から「ドライブレコーダー」を取りつけよとの指示が下りた。
卓は嬉しかった。
ドラレコの装備・・・車内、車外の両面ともなると、それなりに値も張るが、乗務員たちを守るためにも必要な装備であるには違いない。
会社が、事前に動いてくれたことが嬉しかった。
「これで、夜の営業も比較的、やりやすくなるな」
社内では、ドラレコが装着されることを皆が喜んでいた。
会社の考え方が「まっすぐだ」卓はそう感じた。
卓はこれからも、会社には極力、負担を与えず、管理者の一人として、心を込めた社内教育に徹する事を心に誓った。