里奈を送り、自宅へ戻った卓は少しずつではあるが、荷物の整理をし始めた。
新居となるマンションの手続きも済み、二人で少しずつ荷物を運びこんでおこうという事になった。
各部屋に収納勝手の良い取り付けのクローゼットがあるので、殆どの衣類は直ぐにでも運び込める。
後は日を見て、大型の電化製品や、冷暖房の取り付け、少しの新しい家具を運び込めば準備万端であろう。
新居は里奈の通勤も考慮し、武蔵野線沿線上となった。
卓の職場までは、今のマンションより10数分、余計に走ることになるが、それは苦にならない。
「全ては里奈を中心に!」と考えた。
バッグや段ボール箱に衣類や、シューズ等をしまい込むと、食器棚や電化製品だけがやけに目立った。
しかし、これらは一人住まいの後輩に全て譲るという事になっている。
寝具や食器は、新しい物を揃える事になった。
思えば長い独身生活であった。
その間、卓の身の上にも様々な出来事が起こったが、そのひとつひとつをクリアすることで、人としての成長を遂げた事は言うまでもない。
一段落ついたところで、卓はソファーに身を沈め、うつらうつらしていると携帯が鳴った。
同じ班の乗務員からである。
「シュ、主任ですか・・・あの、小山です」
「はい、どうしました」
「今日、振替で乗務させて頂いたんですが、今しがた、事故っちゃいまして・・・」
「えっ!どこですか!」
「駅前商店街の中なんですが・・・」
「お客様は・・・?」
「いえ、迎車で向かっている最中でした」
「それで・・・」
「自分はぶつけた覚えがないんですが、ぶつかって来たと仰るんで・・・」
「なるほど・・・先ず、警察に連絡してください」
「それが、ナンダカンダと、警察への連絡をさせてくれないんです」
卓はピーンと来た。
「それでも、連絡してください・・・いま、直ぐ向かいます」
休み中ではあったが、自分を頼ってSOSを送って来る部下を放っておく訳にはいかなかった。