挙式当日の段取りは、ほぼ決まった。
招待状の発送も業者に依頼し、当日の司会進行と式を演出するブライダルコンサルタントも決まった。
式当日は、特別な事はせず、参席者達と楽しく談笑し食事をしたい。
他の演出は一切ない。
両親への手紙も読まない事になった。
壁に映し出されるそれぞれの家族の歴史と、そこに溢れる感謝の言葉があれば充分であると考えたからだ。
祖母を亡くしたばかりの卓にとって、嬉しい一日であるには間違いない佳き日ではあるが、座っているべき人がいない寂しさは埋めようがない。
しかし、卓の幸せを一番に祈り望んでくれた、祖母の心に答えたいと思う。
本来ならば、1回忌を終えて考えるべきところだが、生前の祖母の言葉もあり、卓は決心に踏み切った。
「長かったなあ」との特別な感慨など、卓にはなかった。
「結婚したい」「結婚できるな」と思った時が適齢期である。
いつもそう思って来た。
50代、60代だって初婚の人たちはいくらでもいる。
「こうあるべき」などと言う決まりなどないのだ。
人それぞれである。
しかし、30の半ばで、人生の良き伴侶に恵まれた事は、素直に喜びたいと思う卓である。
祖母を亡くし、悲しみに暮れていた卓にとって、良き伴侶になる里奈の存在は大きかった。
喜びは倍になり、悲しみは半分になる。
伴侶というものはそういうものだ。
卓は今、しみじみとそのことを噛みしめていた。
「幸せになろう!」「幸せにしてやろう!」そう思う。
鏡を見ながらつぶやいた。
「幸せ!倍返しだ!」