「卓!オ・メ・デ・ト・ウ!」
実家に戻り結婚の報告をした際、ベッドの上に起き上がった祖母が微笑んだ。
「ばあちゃん!こんなに遅くなってしまったけど、俺の結婚式までリハビリ、頑張って、車椅子でもイイから式には参加してくれよ!」
「ウン!ウン!」
祖母の眼に光るものを見た途端、母親が、タオルで顔を覆ったまま泣き出した。
「こんな日が来るなんてね・・・やっと!やっとだわ!・・・アンタが意識失くしてベッドで横になってる時はさあ、・・・もう胸がはりさけそうだったわよ・・・」
「ホント!待てば海路の日和よりありって、良く言ったもんだ!」
父親が顔をくしゃくしゃにして笑っている。
若い時は父親がウザイと思い、口もきかなかったが、最近、卓は親の有難さを身に染みて感じるようになった。
何故か、この頃は、両親が可愛くて仕方がない・・・
「これがトシを取るってことなんだなあ」
卓はそう思った。
「婆ちゃん!俺の結婚式で何、着る?」
「さあ~」
祖母が嬉しそうに首を傾げて見せた。
「なんなら、花嫁さんに負けないくらいの、ドレスでも着るか!」
父親が、からかった。
「それもイイねえ!」
家族が大笑いする中で、祖母は心から喜んでいた。
90近くなるまで、苦労の連続だったと聞いている。
祖父が事業に失敗してからは、卓の父親やその弟たちを育てる為、男たちに交じって、日雇いの仕事までして来た人である。
美和明宏の『ヨイトマケの唄』を聞くたび、涙を拭っているのを、皆が知っていた。
「あ~幸せだよ~あたしゃ~」
祖母が一言、言いながらまた、にっこりと笑う。
「卓!その前に里奈ちゃん、婆ちゃんに、ご挨拶に来なきゃあ~」
母親の言葉に卓が頷く。
「うん!来週の休みに来るって言ってた!」
「そう!」
「婆ちゃん!俺の嫁さんになるコさあ!可愛いよ!奇麗だしさ!びっくるするぞォ~」
卓が言うと、「そうかい!じゃあ、アタシといい勝負だね~」と、祖母が真顔で答えた。
「はは~!」
笑顔笑顔の家族だんらんを、三日月が優しく見守るように微笑む初秋の夜である。