長い沈黙である。
卓が口を開いた。
「結婚て、自分が幸せになるものですけど、その思いと同時に相手も幸せにしてあげる・・・ということなんだと思います・・・」
鈴木が軽く呼応するように頷いた。
「僕一人の給料で、二人が暮らせない額では、ないと思うよ」
鈴木の言葉に、綾子は語気を強める。
「だから、そんなことではなくて・・・あなたも自分の仕事に生きがいを感じている・・・それは、私も全く同じだという事なの!」
「それは分かる・・・だから、その点を否定したこともない・・・」
「だったら!・・・」
綾子は結婚に向いてないのかも知れない・・・卓はそう思う。
「川山さま・・・」
「はい」
「これでは、いつまでたっても平行線上にいるだけです」
「・・・あなたが、決めて!」
綾子が、再び鈴木を覗き込んだ。
「別れよう!今まで、良い時間が過ごせた・・・そう思って別れよう」
「・・・そう!?・・・分かったわ!・・・そうしましょう・・・アトクサレもなくてイイかもね」
「綾子!元気で!それと、僕より理解あるいい男を見つけてくれ・・・」
「そうするわ・・・貴方も、家庭に収まってくれる、いい人と一緒になってください」
「ああ・・・じゃあ!」
「ええ・・・じゃあね!」
「川浦さん!どうもありがとう!」
「いえ・・・」
鈴木は身をひるがえすようにタクシ-の外へ出た。
鈴木が駐車料金を支払っているのがミラ-越しに見える。
窓を開けて「すみません!」と卓が声を掛けた。
「イエ!どう致しまして・・・彼女、よろしくお願いします」
「はい・・・無事、お送り致します」
卓は窓を締めエンジンを掛けた。
駐車場を出て、白山に抜けるコースをとろうとすると、ミラーに鈴木の後姿が映った・
「イイ方です・・・川山様の事、よろしくっておっしゃってくださいました」
「・・・」
ふと見ると、綾子が声を殺して泣いていた。