確かに、綾子の気迫は並大抵ではなかった。
「今日、ここで決着を付ける!」
その気持ちが、分からないわけではない。
しかし、今まで万事がこの調子だったのではないか。
「もしかすると、相手の男性は別れたがっていて、その機会を伺っていたのだろうか」と、卓は考えた。
「あの~宜しいでしょうか」
卓の穏やかな声で、車中には「救われた」といった空気が流れた。
「私が、出る幕ではないのですが、一度、お話させて頂いて構いませんか」
「話って!?」
綾子が尋ねた。
「こちらの方と、男同士で話しが出来ればと、思いまして・・・」
「どうなの?」
綾子が聞くと「イイよ」と男性が素直に応じた。
「じゃあ、私、近くの喫茶店で待ってます」
そう言い残すと、綾子は車から降りた。
「私、川浦 卓と申します」
「大変失礼をしております・・・鈴木 賢哉です」
「大変だと思います・・・綾子さん、威勢がイイので・・・」
「ええ・・・昔は、あんなんじゃあなかったんですが・・・職場は外資系ですから、かなり厳しいと思います・・・周りから受けるストレスも普通ではないと思いますし・・・」
「鈴木さまは、ご結婚の意思と言うのは・・・」
「ありました」
「過去形ですか」
「ええ、今は、別れてもイイとさえ思っています」
「でしたら、その気持ちをお伝えしては、どうでしょうか」
「多分、今でさえ、こうですから大騒ぎになると思います」
「でも、くぐらなければ解決しないトンネルだと、思います」
「優柔不断なんです・・・自分が・・・」
「全く、結婚の御意思がなくなってしまわれたんですか」
「いや、全くと言うわけではありませんが、このままだと、彼女の仕事を理解するための結婚生活になりそうなんです・・・それは、ある意味、自分にとって楽かもしれませんが、長続きはしない・・・そう思うようになりました」
「なるほど・・・分かりました・・・すみませんが、川山様をお呼びいただけますか」
鈴木の掛けた電話で、綾子が戻って来た。
「はい、どうぞ!」
綾子の言葉に卓は答えた。
「川山様・・・」
「はい・・・」
「ご決心なさるのは、川山様ご自身です」
「何を決心するの・・・」
「仕事をお辞めになるか・・・そうして、鈴木様をフォローする側に回ることが出来るか否か・・・」
「ハア~なんで、そうなるの」
「そうなるんです・・・男と女は全く別の生き物ですから、物事の捉え方が違ってくるのは当然です・・・
それをお分かりにならず、今まで来てしまった・・・鈴木様の、お仕事を立派だとご認識し、バックアップしようとするところで、男性側に感謝の気持ちが湧いてくる・・・それが真逆になってしまいました」
「そんなこと、この時代に必要なの・・・旧いわよ・・・女だって男と同等じゃあない!」
「確かに!同等です・・・しかし、本分は違うと・・・そう考えて初めてバランスが取れると思います」
「・・・」
「川山様には、鈴木様に対する感謝のお気持ちが足りない・・・そう思います・・・なぜなら、このまま、ご結婚すれば、私が養ってあげてるのも同然よ・・・って事になりかねない・・・」
「私、そこまで言わない・・・」
「言わない・・・でも思うでしょ」
「・・・」
「男って、たてられて成長するんです・・・」
「・・・」
「どうですか・・・決められますか・・・決められないのなら、このままいることです・・・自然に任せる事です」
「それは、イヤです」
「嫌でも、そうならざるをえません・・・今の状況なら・・・」
「・・・」
「歩み寄るのは、実は川山さまご自身です!」
「ねえ、あなたの意見は・・・」
綾子が覗き込むように鈴木に問いかけた。
「100%、川浦さんの、おっしやる通りだ・・・」
「・・・」
重い沈黙が流れた。