当分は、実家での療養となる。
その日は、マンションに戻り荷物をまとめ実家へと向かった。
その次の日。
卓は会社に行き、運行の管理者達に現状を報告、そして心配を掛けた同僚に挨拶をして回った。
「良かった!良かった!」と誰もが、喜んでくれるのを卓は有難く思う。
管理者も「退院、おめでとう!会社でも出来る配慮はさせてもらう・・・ご自愛ください」と温かい言葉を掛けてもらったことも嬉しい。
その足で、田中主任の自宅へと向かい、快気祝いを手渡した。
田中は、ジムへ行ったとかで留守であったが、心から深い感謝と敬意を表し、お辞儀をする卓に、田中の夫人が恐縮した。
卓は思う。
この世は「仁と礼」で、成り立っていると。
常識や義理を忘れたのでは、人生が味気ない。
人も離れて行くであろう。
全ては「自分」である。
己を律する心、周囲への感謝が人を成長させる。
仲間の中には、すぐ裏を見ようとする者もいた。
会社や上司、同僚の言葉が信じられずに「何か、裏がある」と勘繰るのだが、それはそれで、警戒心があると思う。
しかし、真面目に、真摯に業務遂行していれば、疑う必要はない。
勘ぐられて困る日常を抱えている方が、問題なのだ。
卓はこれからも、この道を歩いて行くであろうことを、感じていた。
このスタンスを、崩すことなく、これからも更に気合を入れて頑張ることが、ほかでもない「己の人生を責任取る」事であると、考えている。
「さて、行くか」
自家用車の、エンジンを、ゆっくり掛けた。
向かう先は里奈の実家である。
助手席には、卓が倒れる前に購入した『誓いのリンク』が、置かれていた。