しんちゃんも堀さんも、泣いていた。
「俺!死んでないよ!ホントに!しんちゃん!堀さん!」
二人とも田中主任の班で、当然、出番は同じだ。
しんちゃんは、行政書士の資格をもったメガネの40代。
堀さんは、ビニ-ル工場の副主任だった、短髪の50代。
卓とは、一緒に飲み語らう仲である。
「とにかく、真面目だったよ!あの野郎!」
堀さんの言葉に、松さんもしんちゃんも頷いた。
「ああ!、もう!夢なら醒めてくれ~!」
卓は叫んだ!
「醒めてくれ~!」
自分の叫び声に、誰かの声がかぶさった。
「卓~!卓~!」
「しっかりして~!卓!」
「目を覚ますの~!」
「卓~!卓~!」
大きな声に卓はうっすらと目を開ける。
「光だ~何の光ナンダ!いよいよ、天上に昇るのか!お迎えの光なのか~!?」
徐々に光の正体が見えて来る。
「明るい!まぶしい!」
蛍光灯の光のようだ。
「卓!見える!?お母さんだよ!」
「卓!おい!しっかりしろ!父さんだ!」
「お兄ちゃん!私が分かる!?」
母、父、妹の順で、はっきりと顔が分かる。
「おお~!」
父親が手を握ってくれた。
ごついが、温かな手だ。
幼いころ、感じた事のある感触が甦った。
「ここは~?」
卓は小さく呻くように聞いた。
「病院なんだよ!」
父の声で、卓は思った。
「俺!死、死んでなんかいなかったんだ!」
卓の眼から一しずくの涙が、こぼれ落ちた。