部屋中が回り始めた。
こんな事は初めての経験である。
昔、子供の頃、遊園地にある、からくり屋敷に入った時の様に、床なのか天井なのかが分からない。
卓は、「落ち着け!落ち着け!」と、自分に言い聞かせ、大きく深呼吸をしようとするが、息が出来ない。
そのうち額と背中には脂汗が滲み出し、眼を開けても閉じても、部屋は激しく回っている。
「救!救急車!」
卓は、這いながらテーブルに近づき、スマ-トフォンを取ろうと腕を伸ばした。
ガタン!携帯が床に転げ落ちる鈍い音にГしまった!」と思ったが、カラダが動かない。
手を伸ばそうとするが、携帯には届かないことが分かると、急に言いようのない恐怖心に捕らわれた。
「ああ~!誰か!誰か!」
声にならない自分の声・・・卓は気が遠くなるのを感じた。
「死」頭に浮かんだ文字・・・
「これで、おしまいか・・・俺は死ぬのか!?」
恐怖に慄きながらも、卓の脳裏には大切な母や父の顔が浮かんでは消え、最後に里奈の笑顔が、鮮明に現れるや安心したかのように卓はフ~ッと息を吐くと、静かに目を閉じた。