「確かに、おっしゃる通り、そういう不条理、理不尽なことは沢山ありますね・・・」
「だろう!?だから、真面目に働くってことがバカらしいってことよ!」
「でも、あなたみたいに自分を投げ出すことを、選ばない人がいる事も事実です」
「だから!さっきから言ってるようにだ!そういう連中はそうすれば、イイだけのことなんだよ!」
「何か残ります?」
「ナニッ?」
「一生は一度だけです・・・自分から放り投げたらそれで、しまいです・・・そういう人生、アジッケないです」
「イイんだよ!オレは!」
「それで、気が楽ならイイんでしょうね・・・でも、誰にも迷惑かけないことですよ」
「うるせえな!さっきから聞いてりゃあ、若造が!何様のつもりだ!」
「気にさわったらごめんなさい」
「・・・」
暫く沈黙が続いた。
佐野インターが、徐々に近づく。
深夜だが、駐車場にはかなりの車が停まっている。
「おい!どうすんだ!」
「一緒に降りてください」
男は着ていた薄手のサマーブルゾンを脱ぎ、持っていたナイフをくるんだ。
ナイフの先端が卓の、脇腹に突き付けられた。
「このまま、トイレまで歩け」
卓は「ん!・・・用足しか?」と思ったが、それだけの事ではないであろうことは、分かっていた。
何か、あればトイレに立てこもるつもりであることは、容易に理解できる。
「頼む!今・・・来てくれ!」
卓は心の中で祈っていた。
実は、男が数十分前「ここで止まれ!」と指示した瞬間、卓はシートの間に素早く携帯を入れておいたのである。
以前から同じ出番の田中と、シークレットの約束事を交わしていた。
特定の番号をワンプッシュで押すと、相手にこちらの会話が、全てつながるように・・・
田中が、会話の内容を聞いているであろうことは、間違いない・・・
佐野インターに、必ず来てくれているはず・・・
「田中さん!来てくれてます!?」
卓は心の中で、切実に問いかける。
と、その時である。
前方から、手を拭きながら歩いて来る見覚えのある顔が、飛び込んで来た。
トイレから今しがた出てきたような素振りのその男は・・・
田中であった。