東北自動車道では、東北復興の物資輸送で、大型トラックやタンクローリーが暗闇の中を競い合うようにスピードを上げ、北へと急いでいる。
卓には考えがあった。
今、その思惑通り、事が進んでいる。
卓は驚いた様子で、わざと声高に叫んだ。
「ゥワッ!しまった!」
卓の声に、後部座席の男が、何事かと声を掛けた
「ど、どうした!」
「燃料が!・・・ガス欠です・・・大変だ!」
「ガス!?」
「ええ、タクシーはLPGで動いているんです」
「ガソリンじゃあないのか!」
「ハイ・・・タクシーはガスで動いているんです」
「そう言えば、そんな話を聞いたことがある・・・スタンドは!」
「ありません」
「じゃあ!どうすんだ!」
「どうすればイイでしょうか!?」
「バッキャロ-!ザアケンナ!俺が知るか!」
「・・・」
「後どれくらい動くんだ!」
「佐野辺りまでです」
佐野にはインターがある。
卓はここで勝負を付けるつもりであった。
「私が、他の車を探します・・・乗り換えてください」
「乗り換えるだと・・・」
「はい・・・私もその車に乗り込みます・・・安心してください」
「で、どの車に乗り換えるんだ」
「先ず、空車のタクシーを探して見ます・・・なければ、トラックに頼んでみます」
「言っておくが、変な真似したら承知しないぞ!」
「はい・・・分かっています」
インターで空車のタクシーを探すなど困難なこと位、分かっているが、少しでも男の神経を逆撫でせず、安心させることが先決である。
車の中で喋りはじめた男の話から分かったことは、数日前に刑期を終え出て来たこと、宇都宮に内縁の妻がいること、働けど働けど借金は減らず、真面目に生きるのが嫌になったこと・・・窃盗と暴行を繰り返し、捕まったことなど・・・男は語り続けた。
「世の中なんて、所詮、こんなもんさ・・・」
男が吐き出すように締めくくった。
「そうでしょうか・・・」
「ナニ・・・」
「そうでしょうか!・・・世の中には諦めず、一生懸命、働いている人は沢山います」
「いいじゃあねか・・・働けば・・・俺は違う・・・やめたのさ・・・真面目に生きるってやつをさ・・・」
「でも騙したり、取ったりしても結局、他人の金ですよ・・・身に付かない金じゃあないですか」
「ふん!そうだ・・・悪銭、身に付かずって言うからな・・・けどなあ、俺はそれでイイんだよ・・・世の中には悪いことしてやがる連中、ゴマンといるさ・・・オエライ政治家の先生方から大企業のオ-ナ-・・・警官や学校の先生・・・まだまだいる・・・外面ばかり良くっても、本質は邪悪ってことよ・・・人間なんて、そんなもんさ・・・」
男は独自の人生観をぶちまけた。